連載第9回目は、大学卒業後、23歳で石垣島に渡り今年で在島歴22年。
ダイビングショップでスタッフ経験を積み、その後、石垣島の専門学校の講師やNAUI ITCのコースディレクターとして活躍。こよなく石垣島の海と自然を愛する、
ダイビングサービス「センス・オブ・ワンダー」代表、富樫 研一氏(#9934)です。
記事を書いてくださいと言われ、「私ごときが・・・」と思いながらも軽く返事をしてしまい、NAUIのホームページのバックナンバーを開くと、其処には今までNAUIを支え、発展に御尽力されて来られた錚々たる諸先輩方の御名前が・・・。私ごとき若輩者が何を書いたらよいのだろうと悩みながら書いております。特に私は学生時代のアルバイトを除くとずっと石垣島で活動して参りましたので、ダイビング業界の事情に大変疎いのです。
そんな私が書くのですから、大した内容ではありませんことを始めに御断り申し上げます。
私は19歳でダイビングを始め、大学を出て直ぐ石垣島のダイビングショップで働き始めました。インストラクターになったのは石垣島に来て1年目の1987年(23歳)でした。
当時は、現在のように教材は揃っていませんでしたし、情報が無くITCがどういうもので、何を勉強して行ったらよいのかも分からず、完全な準備不足で不安を抱いたままの参加となりました。何と、NAUIという組織についても知らなかったのです。
案の定、プレゼンテーションはメチャクチャ、試験は追試、チームにも馴染めず(迷惑を掛けました)惨憺たる状態でした。完全に落ちこぼれです(本当に酷かったです)。1日1日が必死で毎晩皆が寝静まった後も1人悶々とつぎの日の準備をしていたことを思い出します。毎日の睡眠時間は4時間程度でした。何が何だか分からないまま時間だけが過ぎ去り、とうとう合否発表。疑いの余地も無く不合格を覚悟しておりましたが。何と合格!?何をもってして合格なのか見当も付きませんでしたが、インストラクターとしてのギリギリの能力だったことは確かでしょう。ですから、ITCを終えた後はITCを受ける前よりも危機感を感じ勉強しました。
その後ダイビングショップを辞め、専門学校で純粋に指導に携わるようになり、1997年にコースディレクターになりました。学校では指導する立場にありながら、毎日私自身がITCを受けているような追い込まれた状況でした。指導の難しさを痛感させられましたが、充実した日々で、その後の私にとってとてもよい経験となりました。当時の学生は私の指導で大変だったと思いますが、未だに交流があり、数名は石垣島でインストラクターとして活躍しています。
専門学校を辞めた後は1~2年フリーで活動し、色々なショップのお手伝いやITCを行っていました。
そして現在は細々とではありますがダイビングサービスを経営しております。
ここまでを振り返り言えることは、若いなりに人生の方向性に不安を感じていた時期にダイビングを覚えたことで一筋の道が見え、仕事として選んだ事が良かったという事です。もちろんNAUIのメンバーになったことも良かったと思っております。
今後どういう展開が待ち受けているか分かりませんが・・・。
さて、石垣島に住んで22年というときが流れましたが、その間ダイビング事情に色々な変化が見られます。
まず、ダイビングスタイルですが、最も変わったのがダイバーの1日の本数です。以前は1日2ダイブで、休憩時間にはお客様はスキンダイビングを行う時間もありました。私はトップシーズンともなれば体験ダイビングや講習等を含め、多いときで1日4~5ダイブしておりましたが・・・。
しかし、いつの頃からか分かりませんが、1日3ダイブが行われるようになり、今や当たり前になっております。短い滞在日数で少しでも沢山潜って楽しみたいという希望がそのような形態を取るようになったのでしょう。丁度ダイビングコンピューターも普及し、時間と水深の管理がリアルタイムで行えるようになったことが、また3ダイブを普及させた要因かもしれません。
それから、最大水深が深くなり、潜水時間が長くなりました。以前は20mを越えることはほとんど無く、ほとんど10m前後で遊んでいましたが、最近は20mを越えることが多くなり、潜水時間も60分前後が多いです。深い水深というのは未知の世界で、ダイバーにとってはいつの時代になっても何処か憧れがあります。
これら代表的なダイビングスタイルの変化は、ダイビングコンピューターの普及が要因の1つかもしれません。時間と水深の管理がリアルタイムで行えるようになり、水中でダイブプランの管理ができるようになったことは、連日ガイドをする私達にとってはなくてはならない器材です。
ただ、ダイブコンピューターに頼り切ったり、不適切な使用をしていると減圧症に罹る確率が高くなります。現に八重山では減圧症に罹ったガイドダイバーやゲストダイバーが増えているという事実があります。ダイバーは今一度減圧症やダイブコンピュータについての知識や使用法を学び、減圧症に罹らないように十分注意しダビングを楽しんで頂きたいと思います。
ところで、最大水深が深くなったり、潜水時間が延びた事、またゲストダイバーやガイドダイバーが増えたことで、海の中を観察する目が増え、その範囲が広がったからでしょう、様々な生きものの棲息が知られるようになりました。新種も多数見付かっており、今まで知られていなかった生態も明らかになる等、それは専門分野の研究にとても貢献しているのではないでしょうか。
デジカメの普及により今まで以上に海洋生物に対する興味が強くなり、ガイドやお客様の生きものに対する専門化や貪欲さがよい結果を生んでいるものと思います。
八重山の海は、サンゴの棲息を基盤とし海洋生物が多種多様です。
お客様にはそのサンゴや海洋生物をまずは見て頂き、いつの世までもその美しい状態を維持しなければならないという意識を強く持って頂く事を望んでおります。ダイビング技術や知識の継続的なレベルアップはとても重要です。
また、せっかくダイビングという特殊な技術を習得し、海洋生物や環境に直接することができるようになったのですから、それを生かして頂きたいと思います。
八重山の海といえば、今やマンタが有名となりましたが、シーズンともなれば連日多くのダイバーがマンタポイントに訪れます。多いときにはマンタポイントにはダイビングボートが20隻以上停泊し、水中はダイバーだらけとなります。このマンタの存在のお陰で石垣島を訪れるダイバーが増えたと言っても過言ではありません。
このマンタがいつの世までも悠々と泳げる海であって欲しいと思います。そこで、マンタを含めその他の生きものを見たり、写真に撮ったりするだけではなく、ダイバーとして海という環境に生きものに貢献できることは何かをダイバーそれぞれが考え、実行することがこれからは特に重要だと思います。
それは日常の生活の中から始まることもあります。エコ活動や子供たちへの教育等何でもよいのです。ダイバーそれぞれが小さなことから始めればよいと思います。 毎日海の中に入って最近それを強く思います。
#9934 富樫 研一