連載23回目は、ダイビングショップ経営の側、大学講師、「トゲモミジガイ」の生態研究、海底遺跡調査、水中カメラマン、水産資源の栽培・育成と、多種多彩な水中での顔をもつ
「ダイバーズ・プロ アイアン」代表の鉄 多加志様(NAUI #48522)です。
この度は50周年、おめでとうございます。心よりお喜び申し上げます。
普段から、人からものを頼まれると、あまり自分のおかれている状況を考えずに、またそのことの重大さに気が付かないまま、引き受けてしまうことが多々ありますが、今回の原稿依頼も、ま・さ・に・その類いに属するものでした。要求というかハードルの高さに気が付き、焦ったのは言うまでもありません。
鉄氏も執筆したフルカラー150ページの健康とフィットネス、生涯スポーツに渡って綴られているテキストです。価格も¥2,000でお手頃です。運動処方に関しても書かれておりますので、ご自身の健康に関して関心の高い方にはお勧めです。
しかし多分、自分に期待している何かがあるから依頼があった訳で、その期待にそえることを十分に吟味してみたところ、その答えは自分のソースとシーズであること、それが何であるかを再確認し、ここでお伝えできることで、業界に対するプラスのアクションの一助になれば、と寄稿いたしました。
まずは自己紹介かたがたレジャーダイビング産業の方向性や可能性について提言してみたいと思います。わたしは、創業77年のコマーシャルダイビングの老舗に数えられる(株)鉄組潜水工業所(静岡県・清水)の3代目(予定)と開業して32年を迎えたレジャーダイビングの会社の2代目であります。鉄組潜水は祖父が始めた潜水会社であり、昭和一桁の時代に日本の港湾の礎の末席にその身をおいて尽力したと聞きます。その2代目である父が始めた事業がダイビングであり、「ダイバーズ・プロ アイアン」として78年にスタートしました。
当時のレジャーダイビング創世記の一端を担っていたと聞きます。私の本格的なかかわり合いは爆発的なダイビング人口増殖期と呼ばれた「彼女が水着に着替えたら」から遡ること3年、ですからCカードを取得して27年になります。その内半分の年数を東海大学の学外講師として務めて来ました。私には、潜水業・レジャーダイビング・大学や高校の講師、この3つのポジショニングをしていなければ、絶対に経験しなかった数多くの出来事がありました。記憶の新しいところから始めますと、この4月にスポーツ書籍や教科書と言えばここ!と評される大修館書店より出版された「健康・フィットネスと生涯スポーツ」のダイビングの項目を執筆させていただきました。これには前段があり、東海大学出版の「オーシャンエクササイズ」の同じくダイビングの項目を執筆したことと、8年に渡って「潜水概論」という講義科目を持っていたからなのです。共著のごく一部ではありますが、ダイビングを始めた当初、自分が教科書という分野の書籍に執筆できるとは夢にも思いませんでした。2年前の3月には、水産学会において「三保半島沿岸に生息するトゲモミジガイ(アストロベクテン ポリアカンタス)の索餌行動」について発表をしました。
このトゲモミジガイというヒトデにはテトロドトキシンがあり、このヒトデを食べたボウシュウボラを更に採取した人が食べて食中毒事件が当地・清水で起きました。ならば、そのトゲモミジガイは、どのような過程で毒化していったのかを探るのが本研究です。フグと同じような行程で毒化してゆくとしたら、必ず毒化原因餌生物がいるわけで、その特定と索餌行動を分析して真相の解明を試みております。行動や水深・環境が特定できると、ファクターの絞り込みができ、今後の研究の方向性をより明確にすることができます。この研究の成果によって、他のテトロドトキシンをもつ生物の毒化メカニズムの指標が構築され、今後海洋生物による食中毒被害を減少方向へと導くことができるのでは?と考えております。
更に遡ると、海底遺跡(沈船)の発掘調査に3年に渡って携わりました。これは、最終的な結論に達していませんので、僕がここで詳細を明らかにすることはできませんが、今から130年ほど前に南伊豆で沈没したニール号の調査です。ご興味のある方はhttp://nilizu.dip.jp/へアクセスしてみてください。調査団団長の執筆した記録があります。実は、この学術調査にも前段があり、江差の海陽丸の調査やミクロネシアのポンペイにおけるナンマタール遺跡学術調査に参加していて、そこにニール号の調査団団長である荒木先生がいらしたことに起因しています。
さて、この流れのままに時代を遡りながらダイビングヒストリーを振り返るのも面白いと思いますが、もう1つの顕著な事例を挙げて、まとめに移らせていただきたいと思います。私は、幼少から撮影が好きで、陸上の撮影も水中の撮影も始めた年は、ほとんど変わりがなかったように記憶しております。いちばん、インパクトがあったのは1975年の沖縄海洋博で、ここでは、ニコノスの1型とフジのシングル8で水中撮影もしました。思えば僕の人生は、この小学校4年生のときに潜った沖縄で決まってしまったのだと思います。素晴らしい自然とダイビングを共通言語とした仲間...。
そして、その表現方法としての撮影。今に至っては、ライフ&ライスワークとして、地元の海や川の刻々と変わる表情を記録し、年に何度か支店のある函館に行って「はこだてデジタル水族館」用の撮影をしています。これは、函館市からの委託事業の一環で、2004年度から成果品であるDVDを納品しております。監修していただいております北海道大学水産学部の先生や地元の漁協さんのお世話になりながら、函館の海の豊かさや修景の美しさを理解していただき、水産資源が豊富(旨い魚介類が食べれる)という観点だけでなく、素晴らしい海があるからこそ、資源が豊かになるという意識付けを、まず市民の皆さんに啓蒙し、発展的な形で、函館に訪れるビジネスや観光客の方々にアピールするものです。近年は素材の面白さから、小学校の理科や社会科の視聴覚教材としても活用されています。また、この事業と平行して、函館の水産資源のガゴメコンブをパウダー状にして商品化し、その栽培・育成方法についても研究を重ねて、特許を取得しております。
もちろん、ここにはよいことしか(笑)書いていませんので、随分と大層なことを、と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、表題に挙げたサイエンス、アカデミー、ダイバーの目線でこの業界を見渡してきた結果だと思っています。私たちインストラクターやガイド(リーダーシップレベル以上のダイバー)は、1人1人が小さな科学者であり、そのフィールドから得た知識や経験は、ラボラトリー(実験室)に籠って研究している方には想像もつかないほどリッチであり、その伝達の出先は知的好奇心に満ち溢れている子供達へと向けるべきです。そう言った教材や手法は、私たちが所属するNAUIに脈々と流れていると思います。NAUIにクロスオーバーした理由の1つとして、知的好奇心の啓発だけでなく、教育機関に対して不可欠な材料(指導方法や教材の内容)を兼ね備えていると考えたからです。
海洋基本法が制定され、海洋立国としてのポテンシャルが近い将来、私たちにとってよい形で発揮されることは間違いありません。その中におけるダイバーの担う責任や期待は大きく、ニーズやシーズに気がつくかどうかは、各個人のレベルによって違いますが、同じNAUIの仲間として、そのチャンスを逃さないでください。またその準備も怠らないでください。有限会社アイアンは、海で仕事をしたい、潜って仕事をし続けたい人の役に立てるであろう「職業潜水士訓練コース」の受け入れもしております。http://ctc.gosha-inc.com/
これからも、多くの人が海や川や湖で楽しい時間を過ごせるように、今まで以上に、いろいろと試行錯誤していきたいと思います。また、その魅力が多くの人に伝わる機会を創出する「三保水中生物研究会」や「ガイド会」http://www.guide-kai.com/の活動も併せて続けていきたいと考えます。最後になりましたが、今まで私を指導して下さった諸先輩方、ならびに海の楽しさを共有してきて下さったゲストの皆様に感謝を申し上げるとともに、今後も今まで以上のお付き合いをお願いいたします。
Since1978 ダイバーズ・プロ アイアン
代表取締役 鉄 多加志(NAUI #48522)
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