「宇宙開発とスクーバダイビングの関係とは?」連載21回目は、
長年日本の宇宙飛行士訓練に参加された経験をもつ、宝田 稔様(NAUI#14299)です。
50周年おめでとうございます。
NAUIの担当者からこの記事の話の依頼があり、簡単に引き受けてしまいましたが、よくよくバックナンバーの歴代インストラクターを拝見するとNAUIを支えてきた方達ばかり・・・。
まだ未熟な私が記事を書くことに抵抗を感じていますが、特殊な経験をしてきたということで、恐縮ですがお受けしました。
私も早いものでダイビングを始めて今年で20年になります。
私はまだまだ若輩者ですが、人生の半分以上をダイビングに注いできました。
インストラクターを目指したのは、東京都杉並区にあった「NSIS」というダイビング専門学校に入学したことがきっかけでした。そこで担当していただいた小泉和史(#11681)先生の丁寧かつ熱心な指導に、私の心は掻き立てられました。
先生との出会いが「NAUIインストラクターになるしかない!」そう決断した瞬間です。
土肥で行われたNAUI ITCでは、コースディレクター村田幸雄(#4670)さんはじめ、多くの方々にに大変お世話になり、今でもいろいろ助言をいただき感謝しております。
1992年にインストラクターになってからは茨城県土浦市の株式会社ジョイフルアスレティッククラブで10年勤務し、様々な業務を担当させていただきました。
その中でも、特に印象深い仕事が、JAXA(旧NASDA)宇宙航空研究開発機構でのお仕事です。
先日まで宇宙で活躍していた「ママさん宇宙飛行士、山崎さん」や「現在も長期滞在している野口さん」をはじめ、ほとんどの宇宙飛行士【毛利さん・若田さん・土井さん・星出さん・古川さん】と、つくば宇宙センターで水中訓練を重ねてきました。
この仕事は簡単に言ってしまえば「水中で宇宙飛行士と船外活動の模擬実験」をする仕事です。
1996年ごろに施設を運営する担当者から問い合わせがありました。
実は「宇宙に各国が共同で実験施設を作る(国際宇宙ステーション)」というプロジェクトのお話。話をすればするほど何を言っているのかチンプンカンプン。全く未知の話だし、極秘情報とのこと。結局、まずは関係者数十人にCカード取得コースを実施しました。
翌年、担当者からまた問い合わせがありました。今度は「プールで宇宙飛行士のサポートをしてほしい」と連絡がありました。宇宙にも少し興味があったので、引き受けることになりました。 私の担当業務は主に「ビデオダイバー」や「宇宙飛行士サポートダイバー」。プールに沈めた、宇宙で使う実物サイズのモックアップ(ロボットアーム等)を宇宙飛行士が操作する時にサポートしたり、ビデオ撮影したりする仕事です。
プールとは言え深いところで水深10.5m、潜水時間はだいたい3時間~4時間、エアが無くなれば水底でタンク交換です。場合によっては減圧停止が必要になるほど。プールでは水中スピーカーで宇宙飛行士の会話が全て聞こえる仕組み。けれども、会話は全て英語。指示も全て英語。潜水前のブリーフィングも英語。ここで少し英会話の勉強をさせてもらった気がします。
ちょっと余談ですが、宇宙服の内部は相当暑いそうです。皆さんもドライスーツを着るとかなり蒸れ蒸れになりますよね。実は宇宙服には体温を下げる仕組みがあるそうです。着ているインナーに秘密があり、水が通る仕組みになっていて、うまく体温調節をしてるんだそうです。ドライスーツもインナーに冷水や温水が流れる仕組みになればもっと快適なのに・・・。
1999年に3名の宇宙飛行士候補生が誕生しました。
当時、無重力実験を水中でトレーニングするために、宇宙飛行士はCカード取得が必要不可欠な資格。
以前から関係者へのCカード講習を担当していたという経緯もあり微力ではありますが、私が宇宙飛行士Cカード取得担当になりました。
実は「2011年に長期滞在予定の古川聡宇宙飛行士はNAUIダイバーなんです!」
それからは宇宙飛行士候補生が決まればスクーバトレーニングを担当し、選抜候補生の泳力チェックや水慣れ評価など含めて担当することになりました。
今日まで約12年間に渡ってスクーバダイビングで宇宙開発の発展に従事できたことは、私にとって財産でもあり、誰よりも貴重な経験ができたと実感しております。
この度、茨城県つくばみらい市【つくばエクスプレス「みらい平駅」】で2010年5月1日にダイビングショップ「TAKARA Dive」を無事オープンすることができました。店先の大きなシンボルツリー(フェニックス)や琉球石灰岩を使ったエントランスはまさに南国沖縄です。
茨城県で唯一のNAUIスクーバセンターということで、他県の先輩ショップに恥じないお店にしていきたいと思います。
今後はいままで吸収してきた知識、技術をリーダーシップを志す者へ伝えていければと思います。
※「NASAとNAUIの関係」
NAUIはアメリカNASAとの取組で、ジョンソン宇宙センター(テキサス州ヒューストン)の中性浮力実習室に指定されたダイビング指導機関です。そこでは、アメリカ合衆国宇宙計画の宇宙飛行士が、スペースシャトルで船外活動を実施するためのトレーニングを、国際宇宙ステーションの複製が沈められた、世界最大級のプールで行っています。
NASAの宇宙飛行士もまた、NAUIのダイバーなのです。
宝田 稔(NAUI#14299)