第17回 ずかんくんコラム
「サンゴ礁の海」
サンゴ礁の総面積は60万平方キロメートル。
全世界の海洋面積の0.2%程で、地球表面だとわずか0.1%程しかありません。
そのわずかなサンゴ礁域に全海洋生物のうち約25%もの種が生息していると考えられています。サンゴ礁が海洋生物に与えている影響は計り知れません。
はじめに
「どこまでも青く澄み渡る海」、「命溢れる豊かな海」、「憧れの水中風景」、これらはダイビング雑誌や水族館の展示パネルなどでよく使われており、ダイバーや海好きの皆さんなら耳なじみあるフレーズだと思います。
これらの言葉を聞いて、皆さんはどんな海を真っ先に思い浮かべますか?
日本海の荒波?南極の寒い海?東京湾などの身近な海?家族で訪れる海水浴場や潮干狩りに出かける場所も海です。
どれも海には違いないですが、少しイメージが違うような気もしますね。
多くの方の頭に思い浮かぶ「どこまでも青く澄み渡る海」のイメージはきっと「カラフルな南国の魚が泳ぐサンゴ礁の海」だと思います。
<サンゴは動物?植物?>
サンゴは植物のような見た目をしていますが、れっきとした動物です。
サンゴはクラゲやイソギンチャクの仲間に分類される「刺胞動物(しほうどうぶつ)」です。
サンゴには手のようなものが8本あり、触手を持っています。触手を使い、流れてくる小さなプランクトンなどの獲物を捕まえて食べます。実は触手には毒針を持っています。
サンゴは「腔腸動物(こうちょうどうぶつ)」とも呼ばれ、食べ物と排泄物が同じ口から出入りする体の構造をしています。
他の腔腸生物と違う部分として、サンゴはポリプを持ち、そのポリプと呼ばれる個体が分裂して群体を作ります。一つの群体には数百~数万の個体(クローン)が集まっています。
サンゴは世界に約800種も存在します。沖縄は世界的にみてもサンゴの種が多い海域で約200種生息しています。
<サンゴは大きく2つのグループに分けられる>
「造礁サンゴ」・・・サンゴ礁を作る。
石灰質の石の骨格を自らの下に作ります。つまり造礁サンゴは自ら作り出した石の周りを覆うように住み着いている状態です。
この石は造礁サンゴの成長と共に大きくなり、テーブル状、枝状、キャベツ状など環境に応じた形態になり、長い年月をかけてサンゴ礁と呼ばれる立派な地形を作ります。
(例)ハナヤサイ・ミドリイシ・コモン
☆造礁サンゴ例イラスト
「非造礁サンゴ」・・・単体で生息する。多くが深海に生息し、ゆっくり成長する。
宝石に使われる。
(例)アカサンゴ・モモイロサンゴ・シロサンゴ・ベニサンゴ
☆非造礁サンゴ例イラスト
<サンゴと褐虫藻>
サンゴは動物でありながら、植物と同じように二酸化炭素を吸収し、酸素を作り出す働きをしています。この能力はサンゴ自体の働きではなく、ポリプ内に共生する褐虫藻といわれる藻類の働きによるものです。
褐虫藻が太陽の光を浴びて光合成をすることで、有機物を産み出します。
サンゴは、褐虫藻が産み出したその有機物を食べて大きく育ちます。
<サンゴたちの陣取り合戦>
サンゴ礁には沢山の種類のサンゴが暮らしています。
自分で動けないサンゴは成長するとやがて隣同士でぶつかります。
その時サンゴの栄養源である太陽光をめぐって「ケンカ(ナワバリ争い)」が起こります。
ケンカに負けたサンゴは死に至ります。
<サンゴの武器①>
「スイーパー触手」・・・通常の触手より数倍も長い触手を使って他のサンゴを攻撃します。
<サンゴの武器②>
「隔膜糸(かくまくし)」・・・サンゴの消化器官である横隔糸を体外に伸ばして攻撃し、相手の組織を消化します。
<サンゴの重要性>
サンゴ礁で現在確認されている生物種はとても多く9万種を超えていますが、水中の栄養素の量は、その逆でとても低いです。
南の海は透明度が高くキラキラと輝いていますが、「綺麗だから海が豊か」というわけではなく、海の中が貧栄養な状態であることを意味しています。
一方で、日本近辺の海などは南の海に比べて少し濁っているように見えます。
この濁りの正体は、「汚れ」ではなく、沢山の生物の貴重な栄養源になりうる0.1mmにも満たない「植物プランクトン」です。
栄養たっぷりのスープのような海といえますが、これらプランクトンが大量に発生するので、海の透明度はどうしても落ちてしまいます。
それでも造礁サンゴを中心とするサンゴ礁には多種多様な動物が住んでいます。
ではなぜそんな植物プランクトンという海洋生物にとっての恵みの栄養源が乏しい南の海で、9万にもなる多くの生物種が暮らせていけるのでしょうか。
つまり、この貧栄養の海で住む生物たちは何らかの形で造礁サンゴに頼って生きていることになります。
ヒミツは、サンゴが沢山の生物のエサになる有機物を産み出しているからです。
サンゴが共生する褐虫藻が光合成をして有機物を作り、その有機物をサンゴ自身も他の生物も食べることで、サンゴを起点とした豊かな生態系が作られるのです。
さらにサンゴは小さな体の海洋生物に、大きな体の敵から逃れる\隠れ家も提供してくれています。
造礁サンゴは熱帯の海に住む生物にとってオアシスのような存在なのです。
ほかにも、サンゴには重要な役目を担っています。
地上では熱帯雨林が、二酸化炭素濃度をコントロールしてくれていますが、海中ではサンゴが地球温暖化の原因の一つである、二酸化炭素を固定してくれています。サンゴは木と同じく、二酸化炭素を吸収して酸素を排出しています。
二酸化炭素を、炭酸化合物としてとどめる機能を「固定」といいます。
非常に多くの海洋生物がサンゴ礁に依存して暮らしていること、さらには二酸化炭素濃度をコントロールしていること、サンゴはこの世界において多くの重要な役割を果たしてくれています。
<サンゴの危機①サンゴの白化現象>
サンゴから褐虫藻がいなくなると、2週間ほどで色が白くなり「白化現象」が起こります。
褐虫藻がいなくなる主な原因として、海水温の上昇などで褐虫藻がストレスを受けるとサンゴから離れると考えられています。近年は、高い海水温により引き起こされる、サンゴの大量白化現象が問題になっています。
高い海水温をストレスに感じた褐虫藻が、サンゴの体からいなくなり、白化しました。
サンゴは食べ物になる褐虫藻からの栄養の恩恵が受けられず、やがて死に至ります。サンゴは死後に色が黒くなりますが、これは体を保護する粘膜がなくなりコケが生えるためです。コケが生えるとサンゴの体が黒っぽく見えるのです。
<サンゴの危機②オニヒトデの大量発生>
オニヒトデは、ナマコやウニと同じ棘皮動物の一種です。
サンゴの生息する低緯度の海域に分布しています。サンゴを好んで食べるためオニヒトデの大量発生が繰り返されることで、サンゴ礁は危機的な被害を受けてしまいます。そのためダイバーがオニヒトデの駆除活動を行うこともあります。
我々ダイバーにとって身近な存在であるサンゴ礁の海ですが、今回のコラムのテーマである、サンゴの生態紹介はいかがだったでしょうか。
普段、物言わぬ存在であるサンゴの隠れた重要な役割には驚いた方も沢山いたのではないでしょうか。
サンゴは美しく、たくましい動物であると同時に、自然環境変化にとても弱く、もろい部分もある存在ということを紹介させて頂きました。
サンゴを保全する活動は、ダイバーを中心に様々な形で行われていますので、ダイバーではない方も、サンゴの保全活動に是非参加してみましょう!
最後に、忘れてはいけないのは美しい海にサンゴがいるのではなく、サンゴがいるからこそその土地の海は美しくなるのです。
・小学館図鑑NEO 水の生物(小学館)
・特別展「海」生命のみなもと 図録(NHK NHKプロモーション 読売新聞社)
・特別展「生命大躍進」脊椎動物のたどった道 図録(NHK NHKプロモーション)
・特別展「深海2017」最深研究でせまる生命と地球 図録(NHK NHKプロモーション 読売新聞社)
・国立科学博物館 地球館ガイドブック 地球生命史と人類~人類との共存をめざして~
(独立行政法人国立科学博物館)
・小学館図鑑NEO 魚(小学館)
・小学館の図鑑Z 日本魚類館(小学館)
・ポプラディア大図鑑 魚(ポプラ社)
・学研の図鑑 Live 魚(Gakken)
・講談社の動く図鑑move 魚(講談社)
(2024年11月)