第9回 ずかんくんコラム
「癒しのクラゲ水空間」
ホワン、ホワンとゆったりとしたリズム・・ようこそ、癒しのクラゲ空間へ
皆さんはホワン、ホワンと漂うクラゲを眺めていて、心が癒された経験はありますか?
綺麗にライトアップされたクラゲを水族館で眺めていると、穏やかな気持ちになりつい時間を忘れてしまいます。
そしてダイビングの際、目の前に不意に現れたクラゲの不思議で神秘的な姿に見入ってしまう瞬間があります。
よく植物のバラを「綺麗なものには棘がある」という言葉で表現しますが、クラゲにも、とてもピッタリな言葉のように感じます。
クラゲには「危険」と、「美しい」という2つの異なる要素が同居しています。
クラゲは、「毒をもつ生物」の代表種として、昔から「危険で怖い」というネガティブなイメージがありました。しかしここ数年、クラゲの持つイメージはガラッと変わり、「綺麗」、「美しい」、「ガラス細工のよう」、「のんびりした動きで心が落ち着く」といった新しく、ポジティブなイメージに変わり、「癒し」の生物における代表種となりました。
クラゲの持つ「癒し」の力は、特に多くの女性に受け、とても人気がある生物として全国の水族館の展示や、ダイビングではマクロ撮影の好被写体として、話題に取り上げられるようになりました。忙しく気疲れしやすくもある年末時期、「癒し」効果抜群のクラゲは今一番ホットな生物なのかも
とはいえ、毒を持つ生物として「危険」な要素のある種も少なからず存在するので、ダイビングの世界で、安全にクラゲ観察を楽しむためにもクラゲの生態について、あらかじめ予備知識として詳しく学んでおきましょう。
クラゲは刺胞を持つため「刺胞動物」に分類されます。
クラゲ以外にも刺胞を持つ刺胞動物として、サンゴやイソギンチャクなども含まれます。他にも「クラゲ」と名前は呼びますが、刺胞動物ではなく、有櫛動物(ゆうしつどうぶつ)に分類される仲間がいます。有櫛動物のクラゲは体に刺胞が無く、髪をとかす櫛(くし)に似た櫛版(しつばん)という器官を持つのが特徴です。この櫛版は調査船のライトなどが当たると、その光を反射するため、光っているように見えますがクラゲ自体の光ではなく反射によるものです。
刺胞動物のクラゲたち
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「ミズクラゲ」約10~15cm(傘の直径)
日本海でとてもよく見られ、かわいらしく人気のクラゲでファンも多いです。
人が触っても基本的に痛みなどが無く、危険生物とされることはほとんどありませんが少ないが、決して無毒なわけではなく、ハブクラゲの4分の1くらいの強さの毒を持つというデータもあります。水族館では水槽に入った大量のミズクラゲが照明で美しくライトアップされ、幻想的な展示空間の主役になることも多いです。
「アカクラゲ」約10~15cm(傘の直径)
乾燥したアカクラゲの粉を吸い込むと、くしゃみが出るので「ハクションクラゲ」とも呼ばれます。縁から40本くらいの触手が伸びており、内側には触手と同じ長さのリボン状の口腕(こうわん)が4本伸びています。刺されると激しい痛みがありますが、命に別状はありません。
でも・・・かなり痛い・・(怖)
「アマクサクラゲ」約8cm(傘の直径)
暖かい海でよくみられます。全体が薄い赤紫色で触手は16本あり、傘がお皿を伏せたような姿をしていることが特徴です。傘の表面に粒になった刺胞があります。
有櫛動物のクラゲたち
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「アカカブトクラゲ」16cm(全長)
まるでカブトのような見た目をしています。鮮やかな赤色をしていて、他にも紫色やオレンジ色の個体も見つかっています。
「コトクラゲ」15cm(高さ)
クシクラゲの仲間ですが、泳ぎまわることはなく這うように移動します。ウサギの耳のような部分から触手を伸ばして獲物を捕らえます。
「シンカイウリクラゲ」7cm(大きさ)
触手はありませんが、他のクシクラゲを大きく広げた口で丸呑みにしてしまいます。
食べ物が不足すると体を小さくするなど、環境の変化で体の大きさを変えます。
不思議な見た目 クラゲはどんな生き物?
クラゲは6億年前という昔から、ほとんど姿を変えずに地球上に存在しています。そしてクラゲの体はほとんどが水分でできていて、約95%が水分です。
私たち人間も約70%が水でできていて、赤ちゃんの体は約80%が水でできていると言われます。
クラゲは水圧の高い深海でも生きていける
深海の世界では、高い水圧の影響を私たちの体が受けてしまい、生きていくことができません。
水圧とは水がものを押す力です。
私たちの体を風船に例えると中身は当然「空気」です。
空気の入った風船を、水圧の高い深海に沈めると、当然風船は水に押されてしぼみます。
一方クラゲの体は、「水」を入れた「水風船」のような状態です。体の中がたくさんの水で満たされているので、クラゲは水に押されても、つぶれることなく生きていけるのです。
さらにおもしろい!深海クラゲの仲間たち
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「リンゴクラゲ」25cmまで(傘の直径)
薄いお皿のような形のクラゲです。刺胞を使って他のクラゲを捉えている姿も観察されています。
「クロカムリクラゲ」35cm(傘の直径)
発光細胞を持ちます。敵などがぶつかると、体の後ろのひだ状の部分から青白く光る粒子を出して、相手の目をくらまします。それでも攻撃が続くと傘全体に強い光の波を起こします。
「ダイオウクラゲ」150cmまで(傘の直径)
キノコのような形の傘から4本の口腕(こうわん)が伸びています。口腕は平たい帯の様で長さは10mを超えることもあります。クラゲでは珍しく妊娠し、親の形をした子供を産みます。まさにその大きさはクラゲ界の大王です!
クラゲの体の構造
<例:ミズクラゲ>・食物を取り入れるところと排泄物を出すところが同じ
- ・4つの口腕を持つ
- ・外皮の縁に非常に短い触手が並ぶ
- ・「毒」クラゲは触手の表面に刺胞と呼ばれる小さな袋を持つ
この袋は、刺激を受けると中にある針が飛び出す仕掛けになっている
- ・クラゲが持つ針の数は数十億個
クラゲは背骨を持たない
私たちが背骨を持つ「セキツイ動物」であることに対し、クラゲは背骨を持たない「無セキツイ動物」と呼ばれる生物です。
体を支える背骨が無いので陸上で体を支えることはできません。
クラゲがプランクトン!?
「プランクトン」と聞くと私たちはつい、動物プランクトンや植物プランクトンと呼ばれる一部の生物などを思い浮かべがちですが、「プランクトン」という言葉には「浮遊生物」という意味があり、遊泳力が乏しく、水中を浮遊しているクラゲのように、水の流れに逆らえない生活史を持つ生物を「プランクトン」と呼んでいます。
自分で泳いで水中を移動することができる生活史を持つ生物を「ネクトン」、海底で活動する生活史を持つ生物を「ベントス」と呼んで区分けしています。
分類とは違い、生物を生活形態で区分けした用語です。
(例)
プランクトン・・・クラゲ、カニ、エビの幼生、浮遊生物
ネクトン・・・クジラ、イルカ、一般的な魚類、他遊泳生物
ベントス・・・カニやエビなど水底で生活する生物、ヒラメなど一部の魚類、底生生物
なかには浮遊するクラゲの上で生活するウチワエビの幼生など面白い生態を持つ生物も存在します。彼らは通称「ジェリーフィッシュライダー」と呼ばれます。
クラゲの生活史
<例:ミズクラゲ>
- ①卵子と精子が受精し、「プラヌラ」になります
- ☆卵から産まれた時期
「プラヌラ」・・・大きさは0.1mmくらい。繊毛(せんもう)で動くことができます
※ミズクラゲの場合、放精された精子は、メスの保育嚢(ほいくのう)の中で卵を受精させます。
- ②「プラヌラ」は岩などに付着し、触手を持った「ポリプ」に変化します。その姿はイソギンチャクとそっくりです。「ポリプ」は分裂や出芽しながら、どんどん数を増やします。
- ☆イソギンチャクのような時期
「ポリプ」・・・大きさは2mmくらいで、触手でエサを捕らえます。
- ③出芽
- ④分裂
- ⑤ 成長した「ポリプ」は、横にくびれができて「ストロビラ」になります。時期が来ると、カップを重ねたような「ストロビラ」の1枚1枚が離れて「エフィラ」となります。
- ☆ポリプが成長して体を伸ばした時期
- ⑥ 泳ぎだした「エフィラ」は小さな動物プランクトンを食べて、大人のクラゲへと成長していきます。
- ☆「ストロビラ」が分裂したひとつひとつが「エフィラ」
「エフィラ」・・・大きさは3mmくらい。触手でエサを捕らえます。
※①⑥の時期は水中を漂って生活します(卵で殖えます)
※②③④⑤の時期は岩などについて生活します(クローンを作って殖えます)
「(引用書籍)海遊館ガイドブックより」
人間にとって危険なクラゲ!
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「ハブクラゲ」約10cm(傘の直径)
沿岸の浅い海底にいます。光に弱く、日中は深場にいることが多いです。
毒自体はアンドンクラゲより弱いものの体が大きく、刺胞から注入される毒の量が多くなるので症状が重くなります。血圧低下や意識障害、呼吸抑制などが起こり心肺停止になることもあります。心肺停止時は、迅速な心肺蘇生が必要になります。
「アンドンクラゲ」約3cm(傘の高さ)
電気クラゲとも呼ばれます。体が透明なので気づかないうちに刺されます。
傘が立方体で四すみから触手をのばします。
毒が強く刺されるとやけどのようになります。複数回刺されるとアナフィラキシーと呼ばれるショック症状を引き起こす可能性があるので危険です。
「ヒドロ中綱の動物」実はクラゲではない!?
「カツオノエボシ」約10cm(傘の直径)
電気クラゲとも呼ばれ、長い触手に刺胞が並んでいて、触れた稚魚やイカなどを絡め取って食べます。四すみから出る長い触手は7本ずつの長いたばになり、ちぎれて体に残ることもあります。
激しい痛みで赤くミミズばれになり、頭痛、吐き気、呼吸困難などが起こります。
クラゲに刺された際の応急処置
一番大切なことはできるだけ早く海から上がることです。ダイビング中は慌てず呼吸を整えてバディに刺されたことを伝えましょう。水面に上がった際もすぐにスノーケルに変えず、しばらくはレギュレータを加えていた方が安全で(アナフィラキシー症状により溺れる事故に繋がる危険があります)。
- ・触手をピンセットや手袋をはめた手などで優しく取り除きます(絶対に素手で取り除かない)。
- ・海水で優しく洗い流します(真水はダメ!!)刺胞を刺激すると針が発射されて余計にひどくなるので、あくまで優しく洗います。
- ・触手を取り除いた後は患部を氷水等などで冷やすと、痛みと腫れが和らぎます。
クラゲに刺されたら患部に「酢」をかけるという応急処置の方法もありますが、自己判断で「酢」をかけるのは避けましょう。理由は、アンドンクラゲやハブクラゲなどの応急処置に「酢」は効果がありますが、カツオノエボシやアカクラゲなどの場合、逆に刺胞を活性化させるのでとても危険だからです。またどのクラゲに刺されたか刺された跡を見ても素人目には分りません。安易な自己判断は避けましょう。
※応急処置後は必ず医療機関を受診してください。
最後に
毒があり危険なイメージもありますが、私たちダイバーおなじみのウミガメなどは、好んでクラゲを食べることでよく知られています。ウマズラハギやマンボウなどの魚なども好んでクラゲを食べますし、実はペンギンもクラゲを食べていることが分かってきました。つまりクラゲは自然界でたくさんの生物の食べ物になることで生態系を支えている一面があるのです。
そんなクラゲと間違えてこれらの生物が、海に漂うビニール袋を食べて命を落としてしまう「海洋ゴミ」が問題になっています。
僕もダイビングの際に水面付近に漂うビニール袋が太陽の光に反射して、一瞬クラゲと見間違えたことがあり、水中から漂うビニール袋を見ると特に似て見えるなと感じました。
もちろんビニール袋の出所は、私たちが海のレジャーへ出かけた際に捨てられたか、風に飛ばされて流れ出たものと推測できます。
クラゲの魅力と併せて、ビニール袋をクラゲと間違えて食べてしまう海の生物が存在することもダイバーの皆様に広く知ってもらえたら、とても嬉しいです!
おまけ
<あの子はいくつ当てはまる?話題のクラゲ女子の特徴>
- ・一緒にいるだけで心を和ませてくれる
- ・いつものんびりしている
- ・寂しがり屋である
- ・心も体も柔らかい
- ・飴と鞭を上手に使い分ける
- ・見とれて油断していると、時にブスリ!と突き刺す
(参考文献・引用書籍・WEB媒体)
・国立科学博物館 特別展「毒」図録(国立科学博物館・読売テレビ・フジテレビジョン)
・小学館図鑑NEO 水の生物(小学館)
・小学館図鑑NEO 深海生物(小学館)
・講談社の動く図鑑move 深海の生き物(講談社)
・新ポケット版 学研の図鑑⑬ 危険・有毒生物(Gakken)
・公益財団法人 日本ライフセービング協会 <WEB>
(2023年12月)