マンタの名前は英名の「Manta ray(マンタレイ)」からきています。「Manta」とはラテン語で王様が付ける「マント」を指し、スペイン語では、「ブランケット」や「毛布」といった意味があるそうです。確かにマンタはマントのように、四角くてヒラヒラしている感じに見えるのかもしれません。
マンタは大きな巨体を持つ反面、海中を羽ばたくようにヒレを大きく振り、優雅に、ゆったりと泳いでいきます。その壮大な姿はとても神秘的です。
有名な海洋生物のマンタですが、独特な見た目のため、意外と「あれ?どんな生き物だっけ?」とも言われがちです。一体マンタはどんな海洋生物なのでしょうか?はたして魚なのでしょうか?どの海洋生物に近い仲間なのでしょうか?
マンタをより好きになるよう、その生態についてお話しいたします。
NAUI × ずかんくん
沢山知って、ダイビングを
もっともっと楽しんじゃおう!
はじめまして!このたび『ダイビング指導機関NAUI宣伝隊長』に就任いたしました!海の生き物大好き!イラストを描くのが大好き!ずかんくんです!
広い海にはどんな生き物たちが暮らしているのか?『沢山知って、ダイビングをもっともっと楽しんじゃおう!』をテーマに、毎回登場する生き物を変えながらお話していきます!
再発行限定ずかんくんデザインCカードについてはこちら
-
vol.16
「海の誕生」
-
vol.15
「ウミウシ」
-
vol.14
「オオサンショウウオ」
-
vol.13
「サクラダイ」
-
vol.12
「カエルアンコウ」
-
vol.11
「ダンゴウオ」
-
vol.10
「タツノオトシゴ」
-
vol.9
「癒しのクラゲ水空間」
-
vol.8
「メガネモチノウオ(ナポレオンフィッシュ)」
-
vol.7
「チンアナゴ」
-
vol.6
「シャーク~サメの王国~」
-
vol.5
「クマノミ」
-
vol.4
「マンタ」
-
vol.3
「イルカ」
-
vol.2
「ウミガメ」
-
vol.1
「ジンベエザメ」
第4回 ずかんくんコラム
「マンタ」
皆さんが海の中を思い浮かべた際に、真っ先に頭に浮かぶ海洋生物は何ですか?人それぞれだと思いますが、熟練ダイバーのみならずダイビングをしたことがない人や、これからやってみたいという多くの人の頭に浮かぶ海洋生物が、今回ご紹介する「マンタ」だと思います。昔から「ダイバーなら一度は逢ってみたい」と言われるほど、マンタはスキューバダイビングの世界では、象徴的な海洋生物です。
マンタは世界最大級のエイ
マンタはエイの仲間で、サメと同じように「軟骨魚類(なんこつぎょるい)」という軟らかい骨を持つ魚類のグループに含まれます。一方で、タイやクマノミ、ナポレオンフィッシュなどの魚は体の中に硬い骨を持つ「硬骨魚類(こうこつぎょるい)」の仲間たちです。
エイやサメの仲間たちは軟らかい骨を持つので、泳ぎがしなやかです。
エイの仲間は尾ビレの形がすらりと伸びた紐状をしており、他の魚類の仲間とは異なりますが、水中で呼吸をするためのエラを持つ、れっきとした魚です。そしてエラの数はサメと同じように5対並んでいます。体の腹側にエラの数が5対並ぶのがエイの仲間の特徴で、マンタもそのように並んでいます。
サメは、体の側面に5対エラが並ぶという違いがありますが、エラに水を通過させることで血管の二酸化炭素を水中に排出して呼吸を行っている点は同じです。
エイの仲間には、アカエイなどのように波打つようにヒレを動かし海底付近を泳ぐ仲間と、マンタのようにヒレを羽ばたかせて、まるで空を飛ぶ鳥のように海中の中層、または表層付近を泳ぐ仲間がいます。
これはエイの進化の歴史に関係していて、エイの仲間はサメたちよりも、より海底生活に適応した姿に進化しました。体が平べったいため砂地の海底にも隠れやすいうえ、泳ぐ際に水流の影響も受けにくく、口も腹側に付いているため、そこに棲む甲殻類や貝類といった海底の獲物も捕らえやすいといった特徴があります。海底生活に適応したエイの仲間のなかで、中層付近での生活に適応するように泳いでいるのが、トビエイの仲間たちです。アカエイの仲間は小魚や甲殻類、貝類などを食べていますし、トビエイの仲間たちも二枚貝の仲間や魚類などを食べているので、どちらも肉食性ですが、マンタは海の表層に適応し進化しているため、肉食性ではなく、プランクトンを食べて生活しています。
マンタはその巨体を維持するために沢山のプランクトンを食べます。
プランクトンを食べて生活しているという点は、ジンベエザメと同じです。
マンタやジンベエザメはプランクトンを食べて生活しているため、とても温和な性格をしています。
その巨体の迫力とのギャップもあるため、マンタとジンベエザメは優しそうといったイメージも強く、ダイビングや水族館でもとても人気があるのだと思います。
マンタはエイの仲間ですが、多くのエイの種が持つ毒針を持っていません。
敵に対しての最大の武器は、簡単には捕食できないその巨体です。
マンタは巨体という武器を獲得したので、他のエイの仲間のように毒針を持つ必要がなかったのかもしれません。マンタは「世界最大級のエイ」なのです。
生活様式の異なる2種類のマンタ
◇実はマンタと呼ばれる生物は2種いる◇
2009年マンタには沿岸性の生活様式であるナンヨウマンタと、外洋性の生活様式であるオニイトマキエイの2種からなることが報告されました。
- 沿岸性の小型種「ナンヨウマンタ」
- 体長が、5メートル以内とオニイトマキエイに比べて、少し小さめの体をしています。日本近海では石垣島の周辺でよくみられます。
<体の特徴>
・口裂の周囲は白か、もしくは灰色をしている
・第5鰓裂(尾側)に黒い斑紋がないか、もしくはほんのわずかしかない
・背側頭部の白い斑紋の前縁が後ろに向かって「八の字」をしている
- 外洋性の大型種「オニイトマキエイ」
- 体長が、6メートル以上にもなり、とても大きな体をしています。たまに、腹側まで含む全身真っ黒の「ブラックマンタ」という愛称で呼ばれる個体が存在しています。
<体の特徴>
・背中の白い斑紋の前縁が口裂に沿って平行で直線的
・口の周りが黒い
・背側の白い帯模様はカクカクしている
・第5鰓裂(尾側)に近い部分に黒い斑紋がある
◇マンタの仲間と間違えられやすい要注意な生き物◇
「イトマキエイ」
・マンタと違い、口が前でなく下に向いてついている
・マンタと違い毒針を持つ
・体盤幅は小さく1m~2mほどしかない
マンタは交尾をする魚
マンタはサメと同じく交尾をして体内受精をする魚です。
交尾期に、メスの後ろをオスが続いて泳ぐ「マンタトレイン」という行動をして、メスの交尾の準備が整うのを待ちます。メスは交尾の準備が整うと、「フェロモン」と呼ばれる特有の化学物質を分泌し、オスを誘引して交尾に至ります。
マンタのオスとメスの見分けは簡単で、、オスには腹側の尾ビレ付け根にクラスパーと呼ばれる(いわゆるおちんちん)が一対あり、メスにはそれがありません。
マンタは子にミルクを与え、出産する魚
マンタは魚ですが一部のサメと同じように母マンタが妊娠をして、母体の胎内で子育てをして子を出産する「胎生」の繁殖形態をとっています。
おどろくことに母マンタの子宮内は、「子宮ミルク」という特殊な液体で満たされそこから栄養を直接摂取します。そのため赤ちゃんマンタは子宮内では一切排泄物を出さずに、約1年近く我慢して、胎外に生まれ出た後、すぐに排泄をするそうです。
ある程度大きくなってから出産するので、生まれたときからすでに体盤幅が1m以上あります。
赤ちゃんとしてはかなり大きいサイズなのでお母さんの胎内では、ヒレは折りたたんでいるそうです。
沖縄の美ら海水族館にある大水槽内で飼育中のオニイトマキエイが、元気なオスの赤ちゃんを出産してニュースになりました。
マンタが持つ特別なヒレ
ナンヨウマンタとオニイトマキエイには、イトマキエイの仲間たちと共に、他の魚類にはない、頭ヒレ(とうき・あたまびれ)という特別なヒレがあります。頭ヒレは名前のごとく頭部に1対あるヒレです。この頭ヒレは巻物が軽く丸まったような不思議な形をしていて、よく見ると伸びていたり丸まっていたりします。
ずかんくんが水族館の飼育員さんに聞いた話だと、この頭ヒレにはその巨体を操る舵取りの役割があるそうで、左右に方向転換する際にこのヒレの片方を開き、また片方を閉じて、開いたヒレと逆方向に方向転換するそうです。
また、マンタは社会性がある生物のようで、この頭ヒレを使ってオスがメスに触れるなど、コミュ二ケーションにも使用するそうです。
マンタは海洋プラスチックゴミ問題の影響を受けやすい
マンタはプランクトンの群れを見つけると大きな口で海水ごと丸呑みして捕食します。
もしプランクトンの群れの中に小さなマイクロプラスチックが紛れていても食べ分けることができず一緒に丸呑みしてしまいます。
現在、海洋ゴミは世界中どこの海域にも流出していて、奇しくもマンタは沿岸域から外洋域までとても幅広く分布しています。そのため数多くのマンタがマイクロプラスチックゴミをすでに体の中に取り込んでしまっていると考えられています。
ダイバーに愛されるマンタが、これから先の未来も安心して世界中の海で暮らしていけるように、プラスチックを多く製造し、使い捨ててしまう生活様式をダイバーみんなで見直してみませんか?
・小学館図鑑NEO 魚(小学館)
・小学館の図鑑Z 日本魚類館(小学館)
・ポプラディア大図鑑 魚(ポプラ社)
・学研の図鑑 Live 魚(Gakken)
・講談社の動く図鑑move 魚(講談社)
・山渓ハンディ図鑑13 改訂版 日本の海水魚(山と渓谷社)
・山渓カラー名鑑 日本の海水魚(山と渓谷社)
・世界で一番美しい海のいきもの図鑑(創元社)
・日本産魚類生態大図鑑(東海大学出版会)
・以布利 黒潮の魚 ジンベエザメからマンボウまで(海遊館)
・奄美群島の魚類図鑑(南日本新聞開発センター)
・日本産魚類検索 全種の同定 第三版(東海大学出版会)
・ラララさめのくに(さかだちブックス)