<はじめに>
前回の海洋生物コラムで、現生の海の王者である「シャチ」をご紹介させて頂きました。
シャチは恵まれた体格と高い知能、そして唯一無二の特殊能力と仲間とのチームプレーをいかんなく発揮して、海洋生態系ピラミッドの頂点捕食者「王者」の位置に鎮座しています。さて、過去の地球の歴史にはこれまでどんな王者たちが存在したのでしょう。
今回のコラムでは過去、地球の海に実在した海の王者を紹介いたします。
過去の海洋生物を深く知ることで、現在の海洋生物をより深く知る機会に繋がるかもしれません。

はじめまして!このたび『ダイビング指導機関NAUI宣伝隊長』に就任いたしました!海の生き物大好き!イラストを描くのが大好き!ずかんくんです!
広い海にはどんな生き物たちが暮らしているのか?『沢山知って、ダイビングをもっともっと楽しんじゃおう!』をテーマに、毎回登場する生き物を変えながらお話していきます!
前回の海洋生物コラムで、現生の海の王者である「シャチ」をご紹介させて頂きました。
シャチは恵まれた体格と高い知能、そして唯一無二の特殊能力と仲間とのチームプレーをいかんなく発揮して、海洋生態系ピラミッドの頂点捕食者「王者」の位置に鎮座しています。さて、過去の地球の歴史にはこれまでどんな王者たちが存在したのでしょう。
今回のコラムでは過去、地球の海に実在した海の王者を紹介いたします。
過去の海洋生物を深く知ることで、現在の海洋生物をより深く知る機会に繋がるかもしれません。
5億4千万年前は、多くの種がひしめく弱肉強食の世界でした。
カンブリア紀のはじめ、海の生物たちは「食うか、食われるか」の厳しい競争にさらされていました。この時期出現したのは、新種の生物「三葉虫」です。
最大の特徴は硬い甲羅で、他の軟らかい体を持つ生物の中で圧倒的に強い生物でした。
しかし、三葉虫にも太刀打ちできない怪物がこの時代の海の中には君臨していました。
あの有名な「アノマロカリス」です。
その姿を現代に伝える「アノマロカリス」の化石は、とても奇妙な形をしています。
複数のエビが合体したような形をしたものや、クラゲのような形をしたものです。
クラゲのように見えるものは獲物をかみ砕くための硬い歯です、そしてエビが合体したような形をしたものはハサミです。カンブリア紀のほとんどの生物は、数センチにも満たないものばかりで、カンブリア紀の海の支配者「アノマロカリス」は、はるかに大型で獲物を一瞬で飲み込む恐ろしい捕食者でした。機敏に動きハサミで捕え、硬いアゴでどんな硬い殻に覆われた体もかみ砕きます。しかしこの海の支配者「アノマロカリス」は、現代に子孫を残すことなく地球から姿を消しました。
オルドビス紀は4億5千万年前の時代です。
この時代の空気は最悪です。私たちがこの時代に行ってみた場合、酸素ボンベが無いと頭痛に見舞われます。酸素がとても少ないのです。
オルドビス紀は1日があっという間に過ぎていきます。地球の自転がかなり早く、1日が21時間しかないためです。
陸上には生物は全くいません。昆虫もいませんしイモムシですら、はっていません。
また、植物がまったくないため、大気中の二酸化炭素が放出されず、酸素が作り出されることもありません。しかし、海の中は違います。海にはすでに何億年も前から生命が宿り、進化の過程で恐るべき怪物が誕生したのです。
海の中には海サソリがいます。陸のサソリと違い毒は有りません。しかし注意しなければならないのは、頭部にある恐ろしいハサミです。このハサミで獲物を切り刻みます。
オルドビス紀の海でダイビングをする場合、サメから身を守れるような丈夫なスーツが必要です。
サメはまだこの時代にはいませんが、恐ろしい海サソリの攻撃から身を守らないといけません。
しかしこの時代の王者は、海サソリではありません。もっと恐ろしい怪物がいます。
それは「カメロケラス」という巨大直角貝です。
触手を使って、海サソリを捕まえ、捕食していたと考えられます。触手で捕まえた後は、ぼりぼりとかみ砕いて食べるのです。「カメロケラス」の住処は光の届かない深海です。そのため、眼はあまり発達せず、別の器官を頼りにしていたのです。獲物を匂いで嗅ぎ分けて見つけ、触手で素早くとらえるのです。
オルドビス紀の海はエサが豊富で、海の中にはワラジムシのようにも見える三葉虫という生物がとても繁栄していました。
残念ながら21世紀に三葉虫の系統は生き残っていませんが、その種類は1万5千種まで登ります。1ミリ程の小さなものから体長70cmを超える巨大なものまで存在していました。この時代の捕食者たちにとって、三葉虫はとても良いおやつになっていたはずです。
A説:氷河期による海の後退。海洋生物が浅瀬に多く棲んでいて、その浅瀬が無くなり大量絶滅に繋がったため。
B説:太陽系の近くで超新星爆発が起こり、大量のガンマ線が地球に降りそそいだため。
デボン紀は3億6千万年前巨大な甲冑魚(かっちゅうぎょ)の生息する時代です。この時代圧倒的に恐ろしい怪物は「ダンクルオステウス」です。体長は9m以上。体重は4tから5t程でゾウ2、3頭分くらいです。
最大の特徴は恐ろしいアゴをもつ頭部です。体の前の部分の厚い甲冑の厚みは5センチ程にもなります。そして口にあるのは実は「歯」ではなくて「アゴの骨」が伸びたもので、この「アゴの骨」で獲物を切り裂いたり、他の甲冑魚に穴を開けたりしたのです。
アゴは首の後ろの強靭な筋肉に支えられています。このアゴは強力すぎてサメの攻撃に耐えられるスーツでもダイバーを守りきれません。
ダンクルオステウス」を海中で観察するためには、鉄の檻でできたケージに入るほかありません。
恐ろしいサイズの「ダンクルオステウス」だけではなく、甲冑魚には小さいサイズのものもいました。「ボスリオレピス」です。板皮類(ばんぴるい)という甲冑魚たちは5千万年程度しか存続できず絶滅しました。21世紀には全く存在しない種です。
他にも初期にサメとして、異様でユニークな背びれをもつ「ステタカントウス」と言う板鰓類(ばんさいるい)に属するサメも登場しています。専門家はこのサメをユニークな背びれの形から「アイロン台」と呼びます。この背びれはオスにしかありませんでした。メスに見せて求愛したり、メスをめぐるオス同士の戦いに使ったりしていた可能性もあります。これらは進化の過程で最初に現れたサメの一種です。
今では絶滅している多くの種に出会うことができる魅力満載なデボン紀の海なのです。
A説:寒冷化。陸上に進出した植物が二酸化炭素を大量消費したことにより、温室効果ガスが下がりその結果、寒冷化を引き起こし生物の大量絶滅へと繋がったため。
B説:酸欠・海洋無酸素事変。陸上から有機物が流れ、海洋生物が繁殖しすぎたことにより、海中の酸素が減少し、生物の大量死を招いたため。
いくつかの大陸が衝突し、超大陸パンゲアが形成されたことが原因です。大陸と大陸がぶつかり合い、火山活動が活発化したため大量のマグマが上昇しました。これがマントルの大規模な移動になり、スーパープルームを引き起こした結果、大気中に大量の二酸化炭素が放出されました。その温室効果ガスで地球の温度は上昇し続け、一説によれば海面温度が40℃にもなったといいます。
そして噴火によってメタンガスが大量に発生し、メタンガスと大気中の酸素は結合し地球が酸欠状態になってしまいました。そして最終的には酸欠が原因で大量に生物が絶滅することになりました。
恐竜が陸で栄えていた1億5千万年前がジュラ紀の時代です。ジュラ紀は恐竜の最盛期で、地球史上最も大きな陸上生物が生息していました。そして海の中には、さらに大きな怪物がいたのです。
まず目を引くのが、「リードシクティス」という地球史上最大の巨大魚類です。しかしこの巨大な魚類を襲う怪物がこの時代の海には存在しました。それは巨大な海棲爬虫類で、体長は20m以上もあります。
「リードシクティス」の巨大な体を支えているのは、海中の微生物です。現代のジンベエザメのように、海の中を漂うプランクトンなどをこしとって食べていたのですが、巨大な「リードシクティス」も、弱ると沢山の生物に狙われてしまいます。その中に、「メトリオリンクス」という海に適応したワニのような生物が存在します。
海の生活に適応した「メトリオリンクス」は、脚が水かきのようになっていて、しっぽが魚の尾びれのようになっています。その他にも肌がすべすべとしていて、スピードが出るようになっています。
頭に奇妙なツノを持つ面白い見た目のサメ「ヒボドゥス」も弱った「リードシクティス」を狙います。
弱った「リードシクティス」はジュラ紀の海のハンターたちに生きたまま食べられます。恐ろしい海洋生物がウヨウヨしているジュラ紀の海ですが、この時代にはさらに恐ろしい怪物が棲んでいます。史上最大級の海棲爬虫類の「リオプレウロドン」です。「リオプレウロドン」は太く長い大きな歯が並んだ頭部が特徴です。早く泳ぐことができ小さなクビナガリュウ類や、魚竜類まで食べる捕食者だったと考えられています。
地球史上最も危険な海、それは巨大隕石が地球に落下する少し前の、今から7500万年の白亜紀の海でしょう。隕石の落下により、これから紹介する海の中の生物たちも、ほとんどが死に絶えました。
白亜紀の沿岸には、「ヘスぺロルニス」という鳥類が沢山いました。
鳥類ですがペンギンと同じように空を飛ぶことができません。
21世紀の鳥との違いは、クチバシの中に歯が並んでいたことです。
「ヘスぺロルニス」の生息環境はとても過酷で、陸には「ティラノサウルス」がいますし、海の中は地球史上最も危険と呼ばれるほど、多くの殺し屋たちでひしめいています。
なぜ白亜紀の海がそれほど危険な場所と言われるかというと、この時代には肉食の生き物が揃っているからです。
凶暴なサメの仲間、恐ろしい海棲爬虫類、魚類でさえ想像を絶するほど凶暴なのです。殺し屋だらけのこの海を「地獄の水族館」と名づけます。あなたは、この地獄の水族館でダイビングができるでしょうか。
「ヘスぺロルニス」の海の中の生活は、狩りをすることにとても適応しています。
うまく泳ぎ獲物の魚を捉えますが、ほとんどが殺し屋たちに食べられてしまいます。白亜紀の海には、ブルドッグのような顔の「シファクティヌス」という恐ろしい魚類がいました。
その名前の意味は「悪魔のしもべ」という意味です。
2m近くある「ヘスぺロルニス」を丸呑みにして、全長6mまで成長します。
他にもサメの仲間も沢山生息していました。
しかし、この海の王者はなんといっても史上最大級の海棲爬虫類の「モササウルス」でした。
浅い沿岸に生息しているものは全長3m程ですが、沖合に行けば18mもの大きさのものがいました。
白亜紀の海をダイビングするのは危険すぎるので、代わりにROVなどの機械で水中を観察することをお勧めします。
※ROV=「Remotely operated vehicle(遠隔操作無人探査機)
餌になる生物に現代とは比べ物にならないほど巨大な「アーケロン」というウミガメがいます。
「アーケロン」は史上最大級のウミガメで、全長4m、甲羅だけでも2m以上もあり、体重は2tにもなったと考えられています。
「モササウルス」はサメ、ウミガメ、イカなど動くものなら何でも襲い掛かるほど獰猛で、ときには仲間の「モササウルス」にすら襲い掛かります。そして、この地獄の水族館の殺し屋たちは陸上の王者である、恐竜たちと共に地球に衝突する巨大隕石によって消えていくのです。
今から3600万年前の始新世。それは恐竜の絶滅から今日までの中間の時代で、この時代は、新しい海棲哺乳類が生息する時代でもあります。
始新世では哺乳類は進化し、陸地も、海も、水辺も支配するようになります。水陸両生や、海の中での生活に完全に適応した生物が誕生しました。
特にクジラの仲間たちは大きな進化を果たしました。古代クジラの一種「ドルドン」です。
しかし、この「ドルドン」を食べてしまう獰猛な怪物がいたのです。
この時代、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸の間にテチス海という場所が存在しました。テチス海はその後完全に干上がって、サハラ砂漠になってしまいます。
その海に棲んでいた獰猛な怪物とは、「バシロサウルス」です。
全長は20mもあり、小さな後ろ脚がありました。温かい水温の海に暮らしていたので、今のクジラのような厚い脂肪は必要が無くほっそりとしていました。
1832年に化石が見つかったときには巨大爬虫類と考えられ、「トカゲの王」を意味する名が付けられましたが、実はクジラの祖先なのです。
「バシロサウルス」の頭骨を見ると、今のクジラとは全然違います。アゴ前方の杭のような歯で、獲物に噛みついて咥え、後ろの先がとがった歯で獲物の肉を噛み切るといった、完全に肉食動物のアゴの特徴をしていました。
「バシロサウルス」は始新世で、最大の肉食動物です。また、頭骨化石を見ると、とても耳が良かったことが分かります。これは、今のクジラのように、仲間同士で音を出しあっていた可能性が高いことを意味します。しかし現代のクジラの仲間ように知性が発達していなかったので、万一海中で出会ってしまったら食べられてしまうでしょう。
この後、地球は大きな変化を迎えます。アフリカ大陸が北へ移動するのです。
そのため、この古代の海はなくなり、「バシロサウルス」も姿を消すのです。
鮮新世は、今から400万年前、人類が直立歩行を始めた時代です。
この海にはとても有名な怪物が生息していました。
その名は「メガロドン」と言い、現代の海の王者ホホジロザメよりはるかに大きかったのです。
「メガロドン」の名前は「巨大な歯」という意味で、アゴの大きさは成人男性がすっぽり入ってしまうくらい大きくとても危険です。サメは年齢によって居場所を変えます。「メガロドン」も小さい頃は沿岸など浅い水域で暮らし、大きな成魚になると沖合で暮らします。「メガロドン」の幼魚が浅瀬で暮らす理由は、成魚とは食べるものが違うからです。そのため、もし、ダイビングで「メガロドン」を観察する場合は、浅瀬で幼魚を見ると良いでしょう。浅瀬には海藻が沢山茂っています。大きな捕食者はこういう海藻の中には来ません。「メガロドン」の幼魚は「オドメノケトプス」というアザラシのような海生哺乳類を食べていました。「オドメノケトプス」とは、ギリシャ語とラテン語の合成で、「牙で歩くクジラ」という意味があります。その名のとおりに、口に牙があり、左の牙は長さが30cm位ですが、右の牙はオスになると90cmもの長さになりました。これは、オスが繁殖期になるとメスをめぐり戦っていたのだと考えられています。そしてその「オドメノケトプス」を襲うのが全長6mもある「メガロドン」の子供です。
大人の「メガロドン」は子供の20倍もの体重があり、全長は15mもありました。「メガロドン」は、現代のホホジロザメと同じように獲物を襲うと考えられています。獲物に反撃の隙を与えず、下からそっと忍び寄って一気に襲いかかります。最初に弱らせてから、もう一度戻ってきてとどめの一撃を与えたのでしょう。
「メガロドン」は大きなクジラの仲間さえ襲い、食べていたと考えられています。
しかしそんな海の王者「メガロドン」も、氷河期を生き抜くことはできませんでした。
水温が下がると、クジラは環境に適応して数を増やし、冷たい北極や南極の海に移り住みます。しかし「メガロドン」は赤道に近い温かい海に留まるしかなく、餌であるクジラが消えた海でやがて絶滅していくのです。
今回は、太古の海の王者の生態を探るべく過去に地球の海を冒険してきました。
生命の素晴らしさ、面白さ、魅力はまさにその「進化の歴史」にあります。
中でも海中はその時代その時代に、目まぐるしく変化し、最大限に環境適応した王者たちの姿がありました。そのDNAの一部は、ダイビング中に私たちの目に触れる現代の生物にも組み込まれています。ときに、その片鱗を直に目にすることもあるでしょう。
今回の海洋生物コラムでご紹介した太古の王者たちを深く理解し、現代の海を大冒険してください。きっと新しい魅力と浪漫があなたには見えてくるはずです。